2022年カタールW杯で、アフリカ勢として初のベスト4進出を果たしたモロッコ代表に、日本中が驚きました。

スペインを倒し、ポルトガルを倒し、気がつけば準決勝の舞台に立っていたのです。

それは、まるで映画のような現実の出来事でした。

そして迎えた2026年W杯グループステージ初戦、今度は南米の王者ブラジルと対戦し、1-1のドローという結果を出してみせました。

FIFAランキング7位という数字と合わせて考えると、「あの躍進は奇跡じゃなかったのか」と改めて実感している方も多いのではないでしょうか。

この記事では、「なぜモロッコはここまで強くなったのか」という素朴な疑問を出発点に、戦術的な分析から日本代表との対戦シミュレーションまで、サッカーを本気で楽しみたい方のために丁寧に読み解いていきます。

 

モロッコが急に強くなった理由は?

 

表面だけを見ると、確かに「急に」強くなったように見えます。

でも実のところ、その土台は20年近い歳月をかけて静かに積み上げられてきたものです。

モロッコが急に強くなった理由は?

 

2008年が転機の年だった

転機は2008年、モロッコのスキラートで開かれた国家スポーツ会議でした。

ムハンマド6世国王がサッカー強化を国家プロジェクトに位置づけたことで、すべてが動き始めたのです。

それまでのモロッコ代表は、W杯でグループステージを突破したのが1986年メキシコ大会の一度だけ。

2000年代に入ってからはW杯予選落ちが続く、いわば「かつての強豪」という位置づけでした。

その状況を変えるために国王が打った手は、地道でありながら本質的なものでした。

ガバナンスの見直し、インフラへの資金投入、そして育成システムの再構築です。

派手な外国人スター監督を呼ぶのでも、即効性のある補強に走るのでもなく、根っこから作り直すという方針を貫いたのです。

 

「フランスの名門」をモデルにした育成の聖地

 

2009年、首都ラバト近郊のサレ市に「ムハンマド6世フットボール・アカデミー」が開校します。

フランスが長年にわたって世界最高の育成機関として誇ってきたクレールフォンテーヌ(ジダンやアンリらを輩出したフランスの名門育成機関です)をモデルにしており、約18ヘクタールの敷地に複数のピッチ、ジム、プール、学校まで完備した本格的な環境が整えられました。

特筆すべきは、裕福な家庭の子どもだけを対象にしているわけではないという点で、低所得層の才能ある選手を発掘・育成することも大きなテーマとして掲げられていました。

これは、才能は全国に散らばっているのに環境が均等でない現実への、真摯な向き合い方でした。

さらに全国各地に「近接ピッチ」と呼ばれる地域密着型のグラウンドを整備し、どの町に生まれた子どもでもボールを蹴れる環境を広げていきました。

 

国内リーグと世代別強化も同時進行

 

育成と並行して、国内プロリーグ「ボトラ・プロ」の強化も進められました。

ウィダードACやラジャ・カサブランカといったビッグクラブがアフリカ大陸のクラブ競技会(CAF大会)で優勝争いに絡むようになったことで、モロッコのサッカー水準が着実に上がっていったのです。

女子代表やユース年代の強化も同時進行で行われ、2025年のU-20ワールドカップ優勝をはじめ、世代をまたいだ成功が続いています。

「20年かけて作ったもの」が今、爆発しているのです。

奇跡ではなく、設計図どおりの結果、と言えるかもしれません。

 

モロッコの強さの秘密とは?

土台が整った上で、次にモロッコの強さの核心である三つの柱を見ていきましょう。

この三つの柱が絡み合って初めて、あの鉄壁のチームができあがっているのです。

 

第一の柱:欧州と融合した「ハイブリッド集団」

 

モロッコの強化策で最もユニークなのが、「ディアスポラ」と呼ばれる移民の子孫たちの積極的な招集です。

2022年W杯のメンバー26人のうち、半数以上が国外生まれで、現在も多くの主力が欧州生まれ・欧州育ちです。

スペイン、フランス、オランダ、ベルギーなど欧州各地で生まれ、育ち、トップリーグで揉まれた選手たちが「アトラス・ライオンズ」として集結しています。

その象徴がアシュラフ・ハキミです。

 

モロッコなぜ強い 

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マドリードで生まれ育ち、現在はパリ・サンジェルマンでプレーする世界最高クラスの右サイドバックで、スピード、テクニック、判断力のすべてが一流です。

多くの人が、なぜスペイン代表ではなくモロッコを選んだのかと驚いたものです。

ブラヒム・ディアスも同様で、もともとスペイン代表としても活動していた実力者がレアル・マドリード所属のまま「アトラス・ライオンズ」に合流したことは、当時大きな話題を呼びました。

今回のブラジル戦でも、ディアスは先制点のアシストとなる絶妙なスルーパスを通しており、その創造性は本物です。

「アフリカのフィジカル」と「欧州の戦術理解」を一人の選手の中に同居させたこのハイブリッド性こそが、他国には真似のしにくい強みといえます。

また、英語を共通言語にしているチームカルチャーも、異なる国籍・文化的背景を持つ選手たちを束ねる上で大きく効いているといわれています。

 

第二の柱:崩れない守備とカウンターの切れ味

 

2022年W杯を振り返ると、モロッコはほとんどの試合でボール保持率が低い、つまりボールを持たれる側でした。

それでも失点が極端に少なく、僅差の試合を制し続けたのです。

この「持たれても崩されない」という守備の堅固さが、モロッコの大きなアイデンティティといえます。

今回のブラジル戦でも、GKヤシン・ブヌがラフィーニャやヴィニシウスの決定機を再三セーブし、まさにその守備力を世界に見せつけました。

2026年からは、U-20W杯を優勝に導いたモハメド・ウアハビ監督が新体制を率いています。

よりポゼッション(ボール保持)を意識した攻撃的なアプローチを取りながらも、守備の基盤はしっかりと残す方向性で、実際AFCONではボール支配率が平均57%に上昇したとのことです。

守備だけのチームからの進化、という意味でも、これからのモロッコは見どころが多い段階に入っているといえます。

 

第三の柱:国家全体のサッカーへの強い意志

三つ目の柱は、国家全体のサッカーへの強い意志です。

インフラ投資も、ディアスポラ招集も、育成改革も、すべてが「サッカーで世界を取る」という明確な目標に向かって一本の線でつながっています。

選手、監督、連盟、国王、そして何百万人もの国民が同じ夢を共有しているチームは、精神的なタフさが違うと感じます。

2022年の準決勝、フランス相手に0-2で敗れた後も、モロッコの選手たちは誰一人うつむいていませんでした。

あの姿勢が今のモロッコを作っているのでしょう。

 

日本がモロッコと対戦したらどっちが勝つ?

 

多くの人が最も気になるのは、ここでしょう。

冷静に見れば、モロッコが優位なのは間違いありません。

FIFAランキングでモロッコは7位、日本はアジア最高位ながら世界18位前後。

そして今大会初戦で、南米の王者ブラジルと互角以上に戦って1-1で引き分けたという事実が、その実力をさらに裏付けています。

ブラジル戦で見えた「今のモロッコ」の実像

 

今回のブラジル戦の内容は、モロッコ関係者にとっても非常に手応えのある試合だったはずです。

試合を通じてモロッコは積極的に攻め込み、シュート数はブラジルを上回る場面も見られました。

21分には、ディアスの絶妙なスルーパスを受けたサイバリがアリソンを嘲笑うようなループシュートを決めて先制。

32分にヴィニシウスに同点弾を許したものの、後半もボールを持つ時間を確保し、終盤にはポストを叩く惜しいシュートも放ちました。

「引き分けは敗北のような結果」と一部では報じられていますが、それはブラジル目線での評価で、モロッコ目線では「強豪ブラジルと互角に戦えた」という自信になるでしょう。

また、18歳のMFアイユーブ・ブアディが攻守にわたって安定したプレーを見せたことも大きな収穫で、世代交代が着実に進んでいることをうかがわせます。

 

モロッコなぜ強い 日本とどっちが勝つ

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ロースコアで動く、静かな戦い

 

中立地での日本対モロッコの対戦をシミュレーションするなら、勝率はモロッコが55〜60%、日本が30〜35%、残りが引き分けという感じになるでしょう。

展開としては、0-1か1-2という僅差のロースコアになる可能性が高いと思われます。

日本はパスワークとポゼッション(ボール支配)を得意とし、組織的なプレスで相手を窒息させるスタイルです。

 

一方のモロッコは、ボールを持たれても苦にしない守備ブロックで日本の攻撃を吸収し、ボールを奪った瞬間にハキミのスピードやディアスの創造性で一気に仕留めてくるスタイルをとります。

つまり、日本がうまくボールを回せても、モロッコはそれほど焦らないのです。

焦らず待ち続けて、日本が一瞬バランスを崩したタイミングで刺しに来る。

ブラジル戦のサイバリのゴールを見てもわかるとおり、一つのパスから一気に仕留める決定力は本物です。

前半を0-0でしのぎ、後半勝負に持ち込めるかが鍵となります。

 

日本代表がモロッコに勝つには?

では具体的に、どんな戦い方をすれば日本に勝機が生まれるのか、かなり踏み込んで考えてみましょう。

ブラジル戦の内容を踏まえると、モロッコ対策のヒントも見えてきます。

 

ハキミを「2人がかり」で潰す

 

まず守備面で最重要なのが、ハキミの攻撃参加をどう抑えるかです。

ブラジル戦でも序盤からハキミがシュートを放つなど積極的に絡んでおり、右サイドへのオーバーラップを許してしまうとクロスやカットインから決定機を量産されてしまいます。

対策としては、日本の左サイドバックとボランチが連携して、ハキミが持ったら2人がかりで前に進ませないという形が有効です。

これによって右サイドの攻撃力をある程度封じつつ、逆サイドに誘導する狙いも生まれます。

また、モロッコのカウンターはボールを奪った直後の切り替えが異常に速いので、日本がボールを失った瞬間の「即時奪回プレス」を徹底することが重要です。

モロッコ最大の武器であるトランジションの鋭さを封じることができれば、試合の流れは大きく変わってくるかもしれません。

 

外から中へ、三笘の仕掛けを起点に

 

攻撃面では、モロッコのコンパクト守備を崩すカギは「幅を使うこと」にあります。

密集した守備ブロックは、横に広げられると一気に綻びが出やすくなるのです。

三笘薫の左ドリブルからのカットイン、伊藤洋輝の右サイドオーバーラップ、そして久保建英の狭いスペースでの受け方――こうした連係が理想の形です。

フォーメーションは4-2-3-1か4-3-3が現実的な選択肢の一つで、守備時には中盤の枚数を増やしてモロッコのカウンターに対応しつつ、攻撃時にはサイドバックが積極的に押し上げる形を取るといいかもしれません。

ブラジル戦で再三好セーブを見せたGKヤシン・ブヌの守備範囲と反応速度は本物なので、シュートは枠の隅を狙う精度が求められます。

「打てばいい」ではなく、「どこに打つか」が問われる試合になるでしょう。

 

日本が「モロッコから学べること」

最後に少し視野を広げると、モロッコの成功モデルは日本サッカーの未来にとっても示唆に富んでいます。

国家主導の投資、アカデミーの整備、海外出身選手の積極活用。

これらは、方向性こそ違えど日本も追求している課題と重なります。

日本は海外リーグで活躍する選手が急増しており、Jリーグの育成力も年々向上しています。

モロッコが「20年かけて強豪になった」とすれば、日本も同様の時間軸で、世界のトップに近づける可能性を秘めています。

グループCでブラジルと堂々と引き分けてみせたモロッコの姿は、日本サッカー界にとっても「目指すべき姿」の一つとして映るのではないでしょうか。

対戦が実現すれば、サッカー史に残る好勝負になるでしょう。

両チームは今、似た高みを目指しています。