2026年2月22日の夜、東京スカイツリーで信じられないような出来事が起きました。

午後8時15分頃、地上30メートルの空中でエレベーターが突然停止し、子ども2人を含む男女20人が約5時間半にわたって閉じ込められるという事態が発生したのです。

幸いけが人はゼロでしたが、「なぜそんなに時間がかかったのか」「東芝のエレベーターって大丈夫なの?」という声がSNSを中心に一気に広がりました。

正直、これには多くの人が驚かされたのではないでしょうか。

高さ634メートルを誇る世界一のタワーで起きたこの事故は、単なる機械トラブルの話ではなく、高層施設の安全管理や救助体制の課題を私たちに突きつけているように感じます。

この記事では、東芝エレベーターの過去の事故事例を振り返りながら、今回のスカイツリー事故との共通点を探り、救出に5時間半もかかった本当の理由を掘り下げていきます。

さらに、東武鉄道が進めているとされるスカイツリーの売却計画への影響まで、できる限りわかりやすく解説していきたいと思います。

 

東芝エレベーターの過去の事故やトラブル事例まとめ

 

東芝エレベータは三菱電機や日立と並ぶ国内大手メーカーで、その信頼性は業界でも一定の評価を得ています。

ただ、「大手だから事故はない」というわけにはいかないのが現実で、過去を振り返るといくつかの深刻な事故が記録に残っています。

ここでは国土交通省の報告書や報道に基づき、主な事故を見ていきながら、今回のスカイツリー事故と何が共通していて、何が違うのかを整理してみます。

「知らなかった」という方も多いと思いますが、こうした過去の経緯を知ることで、今回の事故の深刻さがより伝わってくるはずです。

 

①2011年京都市内での戸開走行事故

2011年6月、京都市左京区の共同住宅で、東芝製の間接油圧式エレベーターが扉を開けたままかごが急降下するという事故が起きました。

1階から4階へ上昇した後、扉が開いた状態でかごが突然落下し始め、利用していた女性が骨盤を骨折する重傷を負ったのです。

これは本当に怖い話で、「普通に乗り降りしていただけなのに」と思うと、他人事には感じられませんよね。

原因として特定されたのは、制御バルブ内の微細な異物でした。

作動油の中に直径0.100ミリを超える粒子が混入し、それがチェック弁に挟まって油が逆流してしまったという、なんとも精密機器らしいトラブルです。

オイルフィルターの目が粗く(線間距離0.15ミリ)、そのレベルの異物を取り除けなかったことが根本的な問題でした。

この事故を受けて国土交通省が同型機の緊急点検を行ったところ、全国4,430台のうち213台に何らかの不具合が見つかりました。

東芝はその後、フィルターを細かいもの(0.075ミリ)に交換し、扉が開いたまま走行するのを防ぐ「戸開走行保護装置(UCMP)」の義務化を推進しています。

今回のスカイツリー事故と比較すると、原因は大きく異なります。

スカイツリーは強風による安全装置の作動が疑われているのに対し、京都の事故は油圧系統の保守不備が直接原因でした。

ただ、「保守点検の質が事故を左右する」という教訓は、どちらにも共通して当てはまるのではないでしょうか。

 

②2015年東京都豊島区での突き上げ事故

 

2015年6月、豊島区の25階建てマンションで起きた事故は、より複雑な問題を浮き彫りにしました。

東芝製ロープ式エレベーターが18階で乗客を降ろした後、無人のかごが扉を開けたまま上昇を続け、最上階の25階を超えてさらに450ミリ突き上がった状態で停止したのです。

幸い乗客はいませんでしたが、釣り合いおもりが緩衝器に叩きつけられるという深刻な状態で、もし誰か乗っていたら……と考えるとゾッとします。

原因を調べると、巻上機ブレーキのディスクパッドが摩耗し、正常に機能していなかったことがわかりました。

摩耗粉が蓄積してブレーキの吸引力が低下し、かごを止められなくなっていたのです。

問題は、事故の約2か月前(2015年4月)に行われた点検で「異常なし」と判定されていた点で、点検時には問題がなくても、その後急速に摩耗が進んだと考えられています。

 

さらに調べると、東芝は2011年にブレーキの調整基準を変更していたにもかかわらず、交換した部品の一部が旧基準のまま出荷されていたことも判明しました。

部品と基準の整合性が取れていなかったという、管理体制の穴が見えた事故とも言えるかもしれません。

東芝はその後、ディスクの素材を非磁性体に変更し、温度センサーを追加するなどの対策を実施しています。

スカイツリー事故と比べると、「ブレーキが正常に機能しない」という点では根底にある問題が似ています。

スカイツリーのケースでは安全ブレーキが作動しすぎてロック解除ができなかったのに対し、豊島区では逆にブレーキが効かなかったという違いはあります。

しかしどちらも、ブレーキシステムへの対処が救助や安全確保のカギを握っていた点は同じだと言えるでしょう。

 

③2025年仙台市での急上昇による重傷事故

2025年3月に公表された仙台市の事故(実際の発生は2024年1月)は、経年劣化リスクの深刻さを改めて示すものでした。

4階建てマンションに設置された東芝製エレベーターが、3階から1階へ下降した直後に突然急上昇し、最上階の天井に衝突。

乗客2人が重傷を負いました(1人は転倒、1人は衝撃による負傷)。

「下りているはずなのに突然上に飛んだ」なんて、乗っていた方のパニックは想像を絶するものがあります。

原因は、ブレーキを制御する電磁接触器の故障でした。

接点が溶着してオン状態のまま固着してしまい、ブレーキが正常に働かなくなったのです。

問題の部品は設置から24年間一度も交換されておらず、メーカーが「5年を目安に交換」と推奨していた部品でした(なお東芝はこの事故後、交換目安をBKCCについて20年に改定しています)。

ここで注目したいのは、「フェールセーフ設計」という考え方についての誤解です。

 

フェールセーフとは、部品が故障しても安全な方向に動作が落ち着く設計のことです。

担当者はこの設計を理由に「交換しなくても大丈夫」と判断していたとみられますが、24年間の経年劣化はその前提をゆうに超えてしまっていたのでしょう。

「フェールセーフだから安心」という思い込みが、最終的に事故につながったとも言えるかもしれません。

東芝はこの事故を受けて、同型機の交換基準を明確化し、全台交換を実施しました。

また、社員教育の見直しとデータベース構築も進めています。

スカイツリー事故との共通点として挙げられるのは、扉が開いたままの異常上昇と、閉じ込めからの救出という流れです。

スカイツリーでは強風が引き金になっているのに対し、仙台では純粋な機械故障が原因ですが、いずれも乗客が長時間閉じ込められたことへの批判は共通して上がっています。

 

④過去の不適合装置に関する指摘事項

 

2017年、東芝は戸開走行保護装置(UCMP)に関する大臣認定の不適合を公表しました。

申請した仕様と実際の製品が異なっており、ブレーキ回路が独立した二系統ではなく一系統になっていたのです。

影響台数は6,203台に上り、そのうち4,846台は法律違反の疑いがあるという深刻な問題でした。

ただ、国土交通省の調査では安全性に直ちに問題はないと確認されており、東芝は新たな認定取得と是正を速やかに進めています。

申請内容と実態がズレていたという事実は、管理体制への信頼を揺るがすものだったのは間違いありません。

他にも、2006年に江東区で点検作業員が挟まれて死亡した事故や、2010年に府中工場で作業員が落下死亡した事故なども記録されています。

これらは機器の問題というよりも、作業手順やマニュアルの遵守という人的管理の問題でしたが、一つのブランドとして東芝エレベータが背負ってきた過去であることに変わりはありません。

スカイツリーのエレベーターは高速型で風センサーも搭載されており、過去の事例とは構造が大きく異なります。

ただ、安全装置が作動してロック状態になったときの解除の難しさという点では、いずれの事故にも通底するテーマがあるように思えます。

部品の交換基準を明確にし、保守の頻度を高めることが今後の課題として改めて浮かび上がってきているのではないでしょうか。

 

スカイツリーのエレベーター救出が遅いと言われる理由

「5時間半」という数字を聞いて、多くの人が「なぜそんなに?」と感じたはずです。

現代の技術でそれだけの時間がかかるというのは、普通のビルのエレベーター感覚では想像しにくいかもしれません。

しかしスカイツリーという施設の特殊性を理解すると、その長さにもある種の必然性が見えてきます。

ここでは技術的な背景から運営判断まで、遅れた理由を丁寧に解きほぐしてみます。

なお、閉じ込められた20人が全員救出されたのは翌23日午前2時2分頃のことで、体調不良者は一人も出なかったことは、不幸中の幸いだったと言えるでしょう。

まず最初に試みられたのは、停止したエレベーターをそのまま動かして最寄り階へ降ろすことでした。

しかしこれは失敗に終わりました。

急降下を検知した安全装置(非常止めブレーキ)が作動し、かごをがっちりとロックしてしまっていたからです。

このブレーキは「非常止め」と呼ばれ、一定以上の速度で落下していると感知した瞬間に機械的に噛み込む仕組みになっています。

一度作動すると、単純にモーターを回すだけでは解除できません。

専門の技術者が現地で確認し、安全を担保した上で慎重に解除する必要があります。

強引に動かそうとすれば、ワイヤーやガイドレールに過剰な負荷がかかり、二次災害を招く恐れもあります。

「早く動かせばいいじゃないか」という感覚はわかりますが、その判断が取り返しのつかない事態を生む可能性があることも、覚えておきたいところです。

 

また、閉じ込められた乗客はエレベーター内のインターホンが使えず、携帯電話で外部に連絡していたことも明らかになっています。

こんな状況で5時間以上……不安と恐怖はどれほどのものだったか、と思うと胸が痛くなります。

次に問題となったのが、当日の気象条件でした。

事故が発生した夜、東京には強風注意報が発令されており、地上でも風速10メートルを超えていたとみられています。

高さ30メートルという地点は、地上よりもはるかに風の影響を受けやすい環境です。

外部からクレーン等を使って救助する選択肢はほぼ不可能で、すべてエレベーターシャフト内部での作業に限定されます。

最終的に採用された救助方法は、隣接する別のエレベーターを停止中のかごに横付けし、側面の緊急ドアを開けて乗客を移乗させるというものでした。

聞くと単純に思えますが、実際には精度が求められる作業です。

二つのかごの床面を数センチ以内の誤差で合わせなければ、乗客が移乗する際に段差で転倒するリスクがあります。

しかも振動している状況下での作業であり、慎重を期せば期するほど時間がかかる構造になっているのです。

技術的な難しさだけでなく、運営側の判断の遅れを指摘する声もSNS上で多く見られました。

X(旧Twitter)では「非常階段は使えなかったのか」「6時間は辛すぎる、早く改善してほしい」「もっと早く移乗を決断すべきでは」という投稿が相次ぎ、世論の批判は少なくありませんでした。

これについては、一定の理解はできます。

事故当時、展望台には約1,200人が取り残されており、稼働している2基のエレベーターはそちらの降下対応に追われていました。

閉じ込められた20人と残りの約1,200人、どちらを優先するかという難しい判断が求められていたのかもしれません。

 

また、公式発表では事故原因は現在も「調査中」とされており、強風との関係はあくまで疑われている段階です。

運営会社も「判断に時間を要した」と認めており、今後の再発防止策としてシミュレーション訓練の強化が求められるでしょう。

過去の短時間トラブル(2015年、2017年はいずれも30分以内に解決)と比べて今回が異例の長さになった背景には、「最初に再稼働を試みて失敗した時間のロス」があったと考えられます。

移乗救助という方針を早い段階で決断していれば、もう少し短縮できた可能性も十分あるかもしれません。

なお、東京スカイツリーは2月23日を臨時休業として総点検を実施し、前売券の返金対応も発表しています。

 

売却計画はどうなる?

実は、スカイツリーをめぐっては事故以前からある話題が業界内で静かに動いていました。

東武鉄道が東京スカイツリーの売却を検討しているというニュースです。

2025年頃から報じられていたこの話は、今回の事故によってどのような影響を受けるのでしょうか。

東武鉄道がスカイツリー売却を検討している背景には、事業の多角化と投資資金の回収という経営戦略があります。

開業にかかった投資額はおよそ650億円とされていますが、売却額は数千億円規模になるとも言われており、経営的には非常に魅力的な選択肢です。

候補として挙がっているのは海外ファンドや不動産系企業で、2025年には交渉が水面下で進んでいたという報道もありました。

ただし、東武鉄道が2024年に発表した2024〜2027年の長期ビジョンには売却への明確な言及はなく、多角化戦略の一環として検討されているという位置づけのようです。

今回の事故がこの売却計画に与える影響として、まず考えられるのは資産価値への圧力です。

事故によって観光客の足が遠のくリスクが生まれ、翌23日は臨時休業になりました。

1日の来場者は数万人規模ですから、休業による直接的な売上損失だけでも相当な金額になるはずです。

さらに、安全性への不信感がしばらく尾を引くようであれば、年間の来場者数に影響する可能性も否定できません。

買い手の立場からすると、こうした事故はリスク評価の材料になります。

ファンドや不動産会社は投資判断において施設のリスクを厳密に精査しますから、売却交渉の場で「安全強化への投資をどこまで行うか」という点が条件として浮上してくるかもしれません。

結果として、売却価格が引き下げられる交渉材料として使われる展開も十分考えられます。

より根本的な問題として、ブランドイメージへのダメージも見逃せません。

東武鉄道は長年、スカイツリーを「安全の象徴」として位置づけてきました。

2005年の竹ノ塚踏切事故という大きな痛みを経て安全意識を高め、そのシンボルとしてスカイツリーを育ててきた経緯があります。

その施設で今回のような長時間閉じ込めが起きたことは、単なる設備トラブルを超えた意味を持つかもしれません。

ただ、売却計画が白紙に戻るかというと、それはまた別の話でしょう。

原因が強風という外部要因であれば、施設そのものの構造的な問題とは切り離して考えることができます。

安全確認と再開が順調に進み、観光客の回復が見えてくれば、売却の話は引き続き進む可能性が高いとみられています。

東武鉄道の現在の観光強化路線を踏まえれば、事故を契機に安全投資を進めることで、長期的には施設の信頼性向上につながるという見方もできるかもしれません。

2026年2月23日時点では、イメージへのダメージは避けられないものの、原因が外部要因であれば売却交渉への直接的な打撃は限定的という見方が大勢を占めているようです。