2026年2月、ある民事判決がSNSを揺るがしました。

人気ウェブ漫画の作者が、高校講師時代に15歳の教え子へ約3年間にわたる凄惨な性的加害を行っていたと、裁判所が事実として認定したのです。

排泄物を食べさせる、体に「奴隷」と書いて撮影する――信じがたい行為の数々に、ネット上では「鬼畜」「悪魔」という言葉が飛び交いました。

しかし、私がこの事件で最も胸を締めつけられたのは、加害の残虐さだけではありません。

被害に遭った少女が、声を上げるまでに約7年もの歳月を必要としたという事実です。

なぜ、すぐに助けを求められなかったのか。

「どうして逃げなかったの?」と思う方もいるかもしれません。

でも、それこそがこの事件の最も恐ろしい本質であり、私たちが本当に理解しなければならない部分なのだと感じています。

この記事では、被害者が沈黙せざるを得なかった心理的メカニズムと、同じ悲劇を繰り返さないために周囲の大人が知っておくべきことを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

事件の概要をおさらいする

まず、何が起きたのかを簡潔に振り返らせてください。

2026年2月20日、札幌地裁は、北海道芸術高校(通信制)でデッサン講師を務めていた山本章一氏(50代・本名で栗田和明とも報じられている)に対し、1100万円の損害賠償を命じる判決を下しました。

被害に遭ったのは、2016年4月に入学した当時15歳の女子生徒。

山本氏は「漫画の裏話を教えてあげるよ」とLINE交換から接近し、約3年にわたって性的加害を繰り返していたと認定されています。

認定された行為には、自身の排泄物を少女の口に入れさせる、体にマジックで「奴隷」「ペット」と書いて撮影するなど、人間の尊厳を根底から踏みにじるものが並んでいます。

山本氏はこれらを「おしおき」と称していました。

さらに2020年2月には、児童ポルノの作成・所持で罰金30万円の有罪判決を受けていたことも明らかになっています。

山本氏は漫画家としても活動しており、代表作『堕天作戦』はWEB漫画総選挙2019で3位を獲得した人気作品。

連載中、ファンが「面白い」と称賛していた裏側で、こんなことが行われていたわけです。

事件の詳細や出版社の対応については他の記事でも多く報じられていますので、ここからはこの記事独自のテーマ、「なぜ被害者は7年間沈黙するしかなかったのか」に焦点を絞って掘り下げていきます。

グルーミングは「優しさ」から始まる

この事件を理解する上で、どうしても避けて通れないキーワードがあります。

それが「グルーミング」

性的な目的を持った大人が、子どもの信頼を段階的に獲得し、心理的に逆らえない状態を作り上げてから加害に及ぶ手法のことです。

犯罪心理学の研究者であるWintersらが2020年に提唱したモデルによると、グルーミングには5つの段階があるとされています。

第1段階は「被害者の選択」

加害者は、家庭に問題を抱えていたり、自己肯定感が低かったり、孤独を感じている子どもを意図的に選びます。

今回の被害少女は、まさにこの条件に当てはまっていました。

父親との関係に悩み、学校でも心の拠り所を求めていた15歳の少女。

山本氏がそこに「漫画の話をしてあげるよ」と近づいたのは、偶然ではなかったのかもしれません。

 

第2段階は「接近と孤立化」

教師という信頼される立場を使って少女に近づき、LINE交換から個人的なやり取りへ。

周囲の目が届かない関係を築いていきます。

 

第3段階が「信頼の構築」で、ここが最も巧妙なポイントです。

山本氏は少女の家庭の悩みを聞き、「父親代わり」のように振る舞いました。

褒め言葉、特別扱い、「君のことをわかっているのは自分だけだ」という空気を作り上げる。

少女にとって山本氏は、敵ではなく「自分を救ってくれる唯一の大人」に見えていた可能性が高いのです。

ここがグルーミングの最も残酷な部分で、被害者は加害者を「信頼できる人」だと本気で信じているため、後から被害を認識することが極めて難しくなります。

 

第4段階は「性的脱感作」

聞き慣れない言葉かもしれませんが、要するに「徐々に性的な接触に慣れさせる」プロセスです。

車内でのキスや身体的接触から始まり、ホテルでの性行為へ。

そして「おしおき」と称した排泄物強要、「奴隷」と書いての撮影へとエスカレートしていった。

一段一段、少しずつ境界線を壊していくやり方です。

もし最初から「排泄物を食べろ」と言われたら、誰でも逃げます。

でも、すでに信頼と依存の中にいる被害者には、「ここまで来たら今さら逃げられない」という心理的な檻ができてしまっている。

これが段階的グルーミングの恐ろしさです。

 

そして第5段階が「維持と口封じ」

撮影された写真は脅しの材料になります。

「言ったらどうなるかわかるよね」と直接脅す必要すらない。

写真が存在するという事実だけで、被害者は沈黙を選ばざるを得なくなるのです。

「恋愛だった」と思い込まされる脳のメカニズム

グルーミング被害で最も理解されにくいのが、「なぜ被害者は自分が被害に遭っていることに気づけないのか」という点です。

外から見れば明らかに異常な関係でも、渦中にいる被害者にはそう見えない。

これには、脳の仕組みが深く関わっています。

まず「認知的不協和」という心理現象があります。

人間の脳は、自分の中に矛盾する情報が存在すると、強烈な不快感を覚えます。

「信頼している先生」と「自分にひどいことをする人間」――この二つは同時に存在できません。

すると脳は、不快感を解消するためにどちらかの認識を書き換えようとします。

多くの場合、「先生は悪くない。これは愛情なんだ」「自分が誘ったんだ」という方向に合理化されてしまう。

特に10代の脳は前頭前野(理性的な判断を司る部位)がまだ未発達で、この書き換えに抵抗する力が弱いのです。

 

次に「トラウマボンド(外傷性絆)」

これは、虐待と優しさが交互に繰り返されることで、被害者が加害者に強い心理的依存を形成してしまう現象です。

ひどいことをされた後に「特別扱い」される。

恐怖の後に安心が与えられる。

すると脳の報酬系が反応し、「この人がいないと自分はダメだ」という感覚が刷り込まれていきます。

よく知られるストックホルム症候群と似たメカニズムで、加害者を「自分を守ってくれる人」と錯覚してしまうのです。

 

今回の被害女性は、高校在学中から卒業後まで山本氏の要求に応じ続けていたと報じられています。

2019年3月の卒業後も、身体の画像を送るよう求められていた。

外から見れば「なぜ卒業後まで?」と思うかもしれませんが、トラウマボンドが形成された被害者にとって、加害者との関係を断ち切ることは「唯一の味方を失うこと」と同義だったのです。

犯罪心理学者の西田公昭氏は「10代の脳はつながりを優先し、拒否したら嫌われるという恐怖が極めて強い」と指摘しています。

「自分の心から自分を追い出す」という防衛反応

この事件の報道で、私が最も忘れられない言葉があります。

被害女性が裁判で語った「あまりにつらすぎて意識を遠ざけていた。自分の心から自分を追い出すことが癖になった」という証言です。

これは医学的には「解離」と呼ばれる症状で、被害女性は解離性同一性障害(DID)と診断されています。

DID(解離性同一性障害)は、かつて「多重人格」と呼ばれていた疾患です。

ただし、映画やドラマで描かれるような「まったく別の人格が突然現れて会話する」というイメージとは、実際の症状はかなり異なります。

日常的に起きるのは、「ぼんやりして意識が遠のく」「記憶が途切れる」「感情がまったく感じられなくなる」といった症状です。

授業の内容を覚えていない、気づいたら知らない場所にいる、自分が自分でないような感覚が続く。

「先生という言葉が出るだけで恐怖が蘇る」という被害女性の供述も、この延長線上にあります。

 

なぜこんなことが起きるのか。

人間の脳は、あまりにも耐えがたい苦痛を受けると、その体験を「自分のもの」として処理できなくなることがあります。

脳内の海馬(記憶を処理する部位)と扁桃体(恐怖や感情を司る部位)が過剰に活性化し、自己防衛のために意識・記憶・アイデンティティを「切り離す」のです。

排泄物を食べさせられるという行為は、人間の尊厳を根底から破壊するものです。

15歳の少女の脳が、「これは自分に起きていることではない」と感じることでしか生き延びられなかった

そう考えると、彼女の証言の重みが改めて胸に迫ってきます。

アメリカの調査では、DID患者の80〜90%が幼少期から青年期にかけての性的虐待歴を持つとされています。

特に、本件のような長期にわたるグルーミング支配――繰り返される加害と、その合間の「優しさ」――は、DIDを引き起こしやすい環境そのものです。

被害女性が大学に通えなくなり中退に至ったのも、この症状と無関係ではないでしょう。

治療には「人格の統合」を目指す長期的な療法が必要とされており、回復には何年もの時間がかかるのが一般的です。

7年の沈黙は「普通のこと」である

被害女性が民事訴訟を起こしたのは2022年7月。

被害が始まった2016年から数えて、約6〜7年が経過していました。

「なぜもっと早く言わなかったのか」と疑問に思う方がいるかもしれません。

しかしデータを見ると、むしろこの期間は典型的、あるいは短いほうだとすら言えます。

内閣府と支援団体Springが2020年に実施した調査では、性被害者が被害を認識するまでの平均年数は7.46年と報告されています。

6歳以下で被害に遭ったケースでは、35%の人が11年以上経ってから初めて被害を認識していました。

米国のRAINN(全米最大の性暴力支援団体)の調査でも、申告までの平均期間は約11年。

10年沈黙するのは異常なことではなく、グルーミング被害においてはむしろ標準的な反応なのです。

 

なぜそこまで時間がかかるのか。

先ほどお伝えした認知的不協和やトラウマボンドに加えて、「恥の感情」と「自己責任感」が被害者を強く縛ります。

「自分にも非があったのでは」「先生との関係を受け入れていた自分が悪い」。

グルーミングによって植え付けられたこの思い込みを解くには、外部からの情報や専門家の支援が不可欠で、それに出会えるかどうかは運の要素も大きい。

他の被害者のニュースを目にしたとき、信頼できるカウンセラーに巡り会えたとき、あるいは加害者が反省していないと知ったとき――そういった「転機」が訪れて初めて、「あれは支配だったんだ」と過去を再解釈できるようになるのです。

今回の被害女性の場合、転機のひとつは2021年の和解交渉の決裂だったとみられています。

小学館の編集者を交えたLINEグループで、山本氏側が150万円の支払いと引き換えに口止めを求めてきた。

被害女性が「真実を公表してほしい」と求めたのに対し、山本氏側はこれを拒否。

加害者にも出版社にも反省の色が見えないという現実に直面したことが、「もう黙っていてはいけない」という決断につながったのではないでしょうか。

教師による性被害はなぜ繰り返されるのか

ここで少し視野を広げて、この事件が「個人の犯罪」にとどまらない構造的な問題であることにも触れておきたいと思います。

文部科学省のデータによると、令和4年度に性犯罪・性暴力で懲戒処分を受けた教職員は241人。

うち児童生徒が被害者だったケースは119件で、この数字は過去最多を更新し続けています。

ただし、これはあくまで「発覚した件数」に過ぎません。

厚生労働省の2021年の推計では、18歳未満の性被害は年間約39万件とされる一方、警察への届出は5000件に満たない。

つまり報告率は推定10%未満であり、表に出ている数字は氷山の一角でしかないのです。

 

教師による性被害が起きやすい背景には、いくつかの構造的な要因があります。

まず圧倒的な権力格差

子どもにとって教師は、成績や進路を左右できる存在であり、「先生に逆らう」という選択肢はそもそも持ちにくい。

次に密室性の高い指導環境

補習、部活動、個別指導――教師と生徒が二人きりになる場面は日常的に発生し、外部の目が届きにくい構造になっています。

そして学校組織の隠蔽傾向

問題が発覚しても「内部で処理したい」という力学が働きやすく、被害者が声を上げても学校側に握りつぶされるケースが後を絶ちません。

2021年の法改正で、性犯罪歴のある教員のデータベース整備が義務化されました。

しかし2024年の調査では、採用時にこのデータベースを活用している学校は7割にとどまるという報告もあります。

仕組みはできたけれど、運用が追いついていない。

その隙間を突いて、同じような加害が繰り返される構造はまだ変わっていないのが現実です。

子どものSOSに気づくためのサイン

ここまで読んで、お子さんを持つ方の中には「うちの子は大丈夫だろうか」と不安を感じた方もいるのではないでしょうか。

英国の児童保護団体NSPCCや、日本の専門家が指摘する「グルーミング被害に遭っている子どもに現れやすいサイン」を整理しておきます。

行動面では、特定の大人と秘密の連絡を取っている形跡がないかが重要なポイントです。

スマホを異常に気にする、特定の話題になると急に黙る、あるいは逆に過剰に反応するといった変化が見られることがあります。

その大人と「二人きりの時間」を過度に求める、または急に避けるようになるのも注意すべきサインです。

感情面では、自己肯定感の急激な低下が典型的です。

突然「自分なんかダメだ」と言い始めたり、理由のわからない不安や攻撃性が現れたり、引きこもりがちになったりする。

生活面でも、成績の急な低下、睡眠障害、食事の極端な変化などが現れることがあります。

また、年齢に不相応な性的知識を持っていることに気づいた場合は、特に注意が必要でしょう。

 

ただし、最も重要なことをひとつだけお伝えさせてください。

「うちの子に限ってそんなことはない」という思い込みが、一番危険なサインだということです。

グルーミングの加害者は、子どもだけでなく保護者や学校にも「信頼できる大人」として振る舞います。

今回の事件でも、山本氏は「優しいデッサンの先生」として生徒や保護者からの信頼を得ていたはずです。

日常会話の中で「最近、先生と何してるの?」と自然に聞いてみること。

「秘密」と「サプライズ」は違うんだよ、と子どもに教えておくこと。

何か変化を感じたら、スクールカウンセラーなど第三者に早めに相談すること。

できることは小さいように見えて、実はとても大きな防波堤になり得ます。

SNSの怒りの中に見えた「まともな反応」

最後に、この事件に対するSNSの反応についても触れておきたいと思います。

判決後、X(旧Twitter)や5chでは数万件規模の関連投稿が発生し、現在も拡大し続けています。

怒りの対象は、山本氏本人、「民事で終わり」という制度の甘さ、そして小学館の対応に大きく分かれています。

しかし私が注目したのは、被害女性に対する反応です。

「なぜすぐ警察に行かなかったのか」「金目当てでは」という心ない声もごく一部にはありました。

しかし、そうした投稿には即座に「グルーミングで気づけないのが普通だ」という反論が殺到し、圧倒的多数が被害者を支持しているのが実態です。

「よく声を上げてくれた」「勇気ある一歩」「あなたは何も悪くない」。

こうした声が9割を超えている状況を見て、正直、少し安堵しました。

数年前であれば、性被害の告発に対して「本当に被害者なのか」「なぜ今になって」という二次加害が溢れていたかもしれません。

グルーミングという概念が少しずつ世の中に浸透してきたこと、性被害に対する社会の理解が深まってきたことの表れだとすれば、この事件をきっかけに知識がさらに広がることに、わずかながら希望を持ちたいと思うのです。

知ることだけが次の被害を防ぐ

この記事を通じて伝えたかったのは、「山本章一はひどい人間だ」という感情的な糾弾ではありません。

もちろん、裁判所が認定した行為は人間として到底許されるものではなく、被害女性の受けた傷は1100万円では到底償えるものではない

その点は揺るぎません。

しかし、この事件が突きつけている本当の問題は、もっと深いところにあると感じています。

グルーミングという手口は、特殊な犯罪者だけが使うものではありません。

教師、塾講師、スポーツの指導者、習い事の先生――子どもと信頼関係を築ける立場にいる大人なら、誰でも加害者になり得る

そして被害に遭った子どもは、先ほど説明した心理メカニズムによって、自分から助けを求めることが極めて困難になります。

 

だからこそ、周囲の大人が「知っておくこと」が決定的に重要なのです。

グルーミングがどのように進行するか知っていれば、不自然な接近に気づける可能性がある。

被害者が沈黙する心理を理解していれば、「なぜ言わなかったの」と責める代わりに、「話してくれてありがとう」と受け止めることができる。

DIDやPTSDの症状を知っていれば、目の前の子どもの異変を見逃さずに済むかもしれない。

 

被害女性は、「知ってほしい」という思いで提訴に踏み切ったと伝えられています。

約7年の沈黙を破り、裁判という過酷なプロセスを経て、彼女が世の中に投げかけたメッセージ。

それを受け取ることが、今の私たちにできる最も意味のある行動なのではないかと、この記事を書きながら強く感じました。

山本氏側には控訴の可能性があり、この事件はまだ終わっていません。

小学館からの公式見解も出ていない状態です。

今後の動向を注視しつつ、この事件で明らかになった「被害者が声を上げられない構造」そのものに、社会全体が向き合うきっかけになることを願っています。

そして、被害女性の回復を心から祈りたいと思います。

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