ナフサ不足で透析が止まる?医療現場に突きつけられた患者の優先順位
「石油は254日分の備蓄がある」と政府は言います。
なのに、医療現場では「8月には透析が止まるかもしれない」という声が上がっています。
この矛盾、正直なところ「どういうこと?」って思いますよね。
実はこれ、「石油がある・ない」の話じゃないんです。
石油を精製して得られる「ナフサ」という物質が足りない、というのが今回の問題の核心で、ここを知らないと話がまったく見えてきません。
2026年2月末の米・イスラエル軍事衝突後、イラン革命防衛隊が3月27日にホルムズ海峡の封鎖を公式表明し、事実上の封鎖状態が続いています。
その影響が、まさか透析患者の命に直結するとは、多くの人がまだ気づいていないかもしれません。
この記事では、「なぜナフサ不足が透析を止めるのか」「その影響は透析だけにとどまらないのか」「私たちが今できることは何か」を、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。
全国に約34万人という透析患者とその家族にとって、これは文字通り「明日の命」がかかっている話なんです。
目次
人工透析患者に迫る危機とは?
「石油があるのに、なぜ医療現場が困るの?」という疑問から始めましょう。
この疑問に答えるために、まず「ナフサ」という言葉をざっくり理解しておく必要があります。
ナフサとは、原油を精製する過程で生まれる「粗製ガソリン」のようなもの。
このナフサが化学処理を経ることでプラスチックの原料になる樹脂が作られます。
透析医療に使われる道具は、ほぼ全部このナフサ由来の樹脂でできています。
たとえば「ダイアライザー」。
これは人工腎臓とも呼ばれる装置で、内径0.2mm以下の極細チューブが1万本以上束になった中空糸膜でできています。
この膜の素材がポリスルホンという樹脂、外側のケースはポリカーボネート製です。
血液を通すチューブや回路はPVC(塩化ビニル)やポリプロピレン製で、針や液体容器も全部プラスチック。
そして、これらはすべて「使い捨て」なんですよね。
一つでも欠けたら、その日の透析はできません。
「代わりのものを使えばいい」という選択肢がそもそも存在しない、という点がこの問題の怖いところです。
日本透析医学会の2024年末統計によると、現在国内で透析治療を受けている患者数は337,414人。
平均年齢は70.27歳で、75歳以上が全体の41%を占めています。
この方たちは週3回、1回あたり4時間の血液透析を受けていて、1回でも欠かすことができません。
腎臓の機能を機械が代わりに果たしているわけで、これを止めると尿毒症や高カリウム血症、心不全などを引き起こし、数日から1週間以内に命の危機に陥ります。
では今、そのナフサはどれくらい残っているのでしょうか。
政府は「原油の国家備蓄は254日分、約8ヶ月分ある」と強調しますが、これはあくまで「原油」の話です。
原油を精製するとガソリンや軽油が優先して作られ、石化原料のナフサは「余った分」扱いになりがち。
実際にナフサとして使える民間在庫は、約20日分しかありません(石油化学工業協会統計)。
しかもホルムズ海峡の封鎖で、日本向けのナフサ積載タンカーは3月22日到着分を最後に途絶えています。
日本のナフサ需要の約6割は輸入、そのうち7割以上が中東産。
国産分の原油も9割以上が中東に依存しているので、「迂回ルートでなんとかなる」という話にもならないんです。
三井化学、出光興産、三菱ケミカルなど国内のエチレン工場12基のうち、すでに半数以上が減産または停止中というBloombergの報道も出ています。
年間で消費されるダイアライザーだけで5,000万本超。
血液回路、透析針、プライミング液容器を合わせると、消費量は膨大です。
国内シェア5割を持つメーカーのタイ・ベトナム工場は「早ければ8月ごろから国内への出荷が困難になる」と、ロイターが3月27日に関係者取材として報じています。
代替素材はヨーロッパの2社がほぼ独占しており、日本の薬機法で承認を得るには数ヶ月かかります。
「他のメーカーから買えばいい」という話にならない構造、これが今の現実です。
SNSで医療情報を発信する医師が「透析歴30年の患者が『ああ俺死ぬな』と言っている。これは感情論じゃない。構造的に正しい恐怖」と投稿し、数百万人に届きました。
「最後の透析を宣告する医者になりたくない」という言葉の重さは、数字だけではなかなか伝わりきらない現場のリアルを代弁しているように思えます。
高市政権は3月26日に経産省と医療機器調達協議を行い、国家備蓄放出も開始しましたが、赤沢経産相の「国内需要約4ヶ月分確保可能」という発言は原油精製を前提にしたもので、医療優先の法的枠組みはまだ整備されていません。
ナフサ不足の影響は透析以外にも拡大?
透析だけの話で済むなら、まだ「他人事かな」と感じる方もいるかもしれません。
でも実は、ナフサ不足の影響はすでに医療全体に波及しつつあります。
透析患者は、いわばこの問題の「最前線にいる人たち」であって、そこから崩れていけば次は私たちの番という可能性もゼロではありません。
透析回路と同じように、医療現場で使われるほぼすべての使い捨て製品がナフサ由来の樹脂でできています。
具体的にどんなものが影響を受けるのか、まとめてみましょう。
- 手術用廃液容器(国内シェア7割のタイ工場が4月半ばでナフサ供給終了見込み)
- 点滴バッグ・注射器・カテーテル
- 手術用手袋・防護服
- 新生児治療に使う資材
- ストマ袋・バルーン
- 救急手術の廃棄物容器
これら全部が、PVC・ポリプロピレン・ポリエチレン・ポリカーボネートなど、ナフサ由来の樹脂でできています。
正直、これだけの範囲に影響が出るとわかると、背筋が少しヒヤッとしますよね。
福岡の内科院長がFNNの取材(3月27日)で語った言葉が、現場のリアルを生々しく伝えています。
「手袋が100枚入りで450円だったのが1,000円を超えた。在庫次第では医療行為ができなくなる」。
手袋1枚が使えなくなる、それだけで診察も注射もできなくなるんです。
聴診器を当てる前に手袋をはめる、あの当たり前の光景が「当たり前でなくなる」かもしれない。
影響が出るタイミングの予測を整理すると、こうなります。
- 3月末〜4月上旬:既存在庫で凌げるが、エチレン減産の影響が波及し始める
- 4月半ば:廃液容器の逼迫が始まり、手術・救急現場が混乱するリスクが浮上
- 5〜6月:待機手術の延期や診療制限が現実味を帯びる
- 8月以降:透析回路の本格的な不足が始まり、最悪数千人規模の死亡リスク(医師・専門家の指摘)
X(旧Twitter)上では「炭鉱のカナリア」という表現が広がり、透析以外にも新生児治療や在宅介護の崩壊を懸念する声が急増しています。
医療ガバナンス研究所の上昌広医師は「ガソリン以上に深刻。医療機関崩壊の恐れがある」と警告しています。
「地方の自治体病院は慢性的な赤字で在庫を積み増しできない。最悪、数万人単位の超過死亡が起きる可能性がある」という指摘は、重く受け止めるべきでしょう。
ナフサ不足はさらに、日用品にも飛び火します。
食品トレーやポリ袋、農業用のビニールハウス資材、物流に使うプラスチックパレット。
社会インフラ全体に関わる問題として、静かに、でも確実に広がっているのが今の状況です。
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ナフサ不足が生む医療現場の優先順位と決断
医療資材が足りなくなったとき、病院は「誰から治療するか」という判断を迫られます。
普段はあまり表に出ない話ですが、これは現実の医療現場では「トリアージ」と呼ばれる判断として、災害時などにすでに行われてきたものです。
ナフサ不足が深刻化した場合、この判断が日常の医療現場にも持ち込まれる可能性がある、というのが今起きていることの本質かもしれません。
具体的に何が起きているのか、場面ごとに見ていきましょう。
①手術・救急現場でのディスポ製品枯渇
廃液容器や手袋、カテーテルが足りなくなったとき、病院はまず「待機手術」の延期から始めます。
緊急性の低い手術を後回しにして、今ある在庫を救急に回す形ですね。
でも在庫が尽きると、救急の現場でも「この患者に使うか、次の患者に回すか」という選択が生まれます。
交通事故で運ばれてきた人を助けるための廃液容器が病院にない、という状況が現実として起きうるわけです。
今日元気だったあなたの家族が、明日そこに立たされるかもしれない。
そう考えると、「他人事」とは言い切れないことがじわじわと伝わってくるかもしれません。
②在宅介護(ストマ・紙おむつ)への波及
ストマ袋やバルーンカテーテルを使っている患者、在宅で介護を受けている高齢者の方にとっても、この問題は深刻です。
介護の現場からは「手袋すら入手困難になりつつある」「ストマ袋が品薄で代替品を探している」という声がすでに上がっています。
紙おむつもプラスチック素材を多用しているため、波及の可能性があります。
在宅介護が成り立たなくなれば、家族の負担が増え、施設への入所需要が急増します。
でもその施設もまた、同じ資材不足に直面しているわけで、逃げ場のない連鎖になっていくのが怖いところです。
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③「最後の透析」を宣告する医師の苦悩
SNSで医療情報を発信する医師が「最後の透析を宣告したくない」と投稿し、大きな反響を呼びました。
透析医と患者の関係は、週3回・数年から数十年にわたる長い付き合いです。
1,000回以上、同じ人に針を刺し続けてきた医師が「もうダイアライザーがないから今日で終わりです」と告げる。
透析医は患者と長年の信頼関係を築いており、「最後の透析」を宣告する苦悩は極めて大きいものがあります。
東日本大震災のとき、透析患者が透析を受けられず亡くなったり、遠方の病院まで搬送されたりした事例がありました。
あの悲劇が、人工的な「資材不足」という形で再現されるかもしれないということです。
④代替療法(腹膜透析等)への移行の限界
「腹膜透析(PD)に切り替えればいいのでは?」という声も出ています。
腹膜透析は自宅で行える透析の一種ですが、万能ではありません。
透析患者の平均年齢が70歳を超えていることからもわかるように、高齢者や認知症を抱える方には在宅管理が難しいケースが多くあります。
血管アクセスの問題や感染リスクの高さも課題で、「移行すればOK」とは言い切れない現実があります。
CKM(保存的腎臓管理)という、透析なしで症状を和らげる治療法も選択肢に入りますが、急性増悪が起きると対応できません。
「PDに移行するよう促されるだけ」という声に対して、医師側から「現実的に無理なケースが多い」という反論が出ているのも、そういう背景があるからです。
ネット上では「80代と若年層ではどちらを優先すべきか」「透析は本人の不養生の結果だ」という攻撃的な議論も散見されました。
でもそういう選別論は、一歩間違えると「次は誰が切られるか」という社会の分断に直結します。
「弱者を切り捨てれば日本が崩壊する」という反発が大多数を占めたのは、多くの人がそのことを直感的に理解しているからでしょう。
現状の最大の問題は「法的な空白」にあります。
石油備蓄法は原油中心に設計されていて、ナフサを医療用途に優先配分するための法的根拠がありません。
第221回国会でナフサ医療優先配分は議題にすら上がっていないのが実情です(日刊スポーツ3月28日報道)。
国家備蓄の放出は始まっていますが、それが医療プラスチックの原料として届くまでの優先配分ルールがないため、現場はただ待つしかない状態に置かれています。
まとめ:私たちがいまできること
ここまで読んでくださった方は、この問題の複雑さと深刻さが少し伝わったのではないかと思います。
透析患者の話から始まりましたが、「自分には関係ない」と思えない理由がたくさんありましたよね。
337,414人の透析患者は、この社会の「炭鉱のカナリア」です。
炭鉱で有毒ガスが漏れ始めると、まず小さなカナリアが倒れる。
それを見た炭夫が「危険だ」と逃げる合図にする。
透析患者が今、最初に倒れようとしているかもしれない。
そう考えると、この問題を「誰かが何とかしてくれる」と待っているだけでは済まない気がしてきます。
では、私たちにできることは何でしょうか。
まず、持病がある方は早めに動いてください。
透析を受けている方は、主治医に在庫の状況や代替療法の可能性について聞いておくと安心かもしれません。
糖尿病で毎日注射器を使っている方は、処方の見直しや在庫の確認を。
ストマやバルーンを使っている方、在宅介護を受けている方は、今のうちに複数の入手ルートを探しておくといいでしょう。
「歯医者に行くのを後回しにしている」という方も、早めに動いておくことを強くおすすめします。
歯科でも手袋や資材を使うため、状況が悪化すると治療が制限される可能性があります。
虫歯の治療くらい、今のうちに済ませておいて損はありません。
妊娠中の方や出産を控えている方は、出産予定の医療機関に点滴バッグや新生児治療資材の状況を確認しておくと、いざというときに焦らずに済みます。
家庭での備蓄については、医療用ディスポ製品を個人で大量に買うのは現実的ではありませんが、以下のものは少し余裕を持っておくといいかもしれません。
- 消毒液・使い捨て手袋(一般用)・マスク
- 家族の常備薬(処方薬は主治医に相談)
- 食品保存袋・保存容器(食品トレーやポリ袋にも影響が波及する可能性あり)
重い荷物を運ぶのが大変な場合は、ネットショップで少しずつ備蓄を増やしておくと助かります。
楽天などで「使い捨て手袋」「消毒液」「保存袋」などを検索すると、まとめ買いできる商品が見つかりやすいので活用してみてください。
この危機は、今日明日で解決するものではありません。
情勢は毎日変わるので、ロイターや日本透析医学会の情報を定期的にチェックしながら、冷静に動くことが大切です。
SNSで医療情報を発信する医師が「構造的に正しい恐怖」という言葉を使いました。
パニックになる必要はないけれど、正しく怖がることは大切なことだと思います。
337,414人の透析患者が「俺死ぬな」と感じているのは、感情的な不安ではなく、現実を正確に見た結果です。
私たちが今できる最善のことは、この問題を「知ること」「備えること」「声を上げること」。
その積み重ねが、誰かの「最後の透析」を一日でも遠ざける力になるかもしれません。
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